* 君と僕の純情日記 *





朝、起きてみたらとても身体がだるかった。季節は既に初夏だというのに、何故か酷く寒く感じられた。

「風邪、引いたかな・・・・」

重い身体を無理矢理起こして服を着替えた。
身なりを整えるのに何時ものように横目で鏡をみると、顔がやけに赤い事に気付く。

もしかしたら熱が有るのかもしれない。
矢張り、昨日傘をささずに帰ったのがいけなかったのかな。

寝起きとは違う、ぼんやりとした頭でそう考えた。


 * * *


「周助?ちょっとアンタ熱有るんじゃないの、その顔」

一階に降りるとすぐに、姉さんにつかまった。ひんやりと冷たい手でボクの額に触れた。冷たくて気持ちがいい。手が冷たいのはもしかしたら遺伝なのかもしれない。

「やっぱり、熱、有るんでしょう?」
「ううん、さっき計ったけど無かったよ」
「嘘」
「本当。それに、熱が本当にあったら、ボクは迷わず休むタイプでしょ?それを一番よく知ってるのは、姉さんじゃない」

勿論、熱を測ったというのは嘘だった。でも、後者は本当。無理をしないタイプというわけではなかったが、迷惑をかけることをボクは一番嫌った。特に家族に関しては。
だから、熱が有る時やどうしても学校にいけない場合は、潔く家に一人残った。
後で早退することになるより、そっちの方がよっぽどましだから。

「・・・・そうね、でも、無理しちゃだめよ?」

半ば諦めたように指でつん、と頭を小突いて、姉さんは仕事に向かった。

「ボクも、学校行かなきゃ」

初夏のやわらかい空気に身震いしながら、洗面所に向かった。


 * * *


大事な家族を騙してでも。
ボクには休めない理由があった。

「そっか、だからなんだ――」

霞みかかった、でもやけに冴えた頭。
ふと、昔の事を思い出してみる。


 * * *


――――已然、こんな事があった。




其の日も、朝っぱらから熱を出して、学校をやすもうと思った日だった。

家には当然のように誰も居なくて、一人で自分の部屋で静かに寝ていた。「ごめんね」と、去り際に謝った家族を思い出す。

「帰り、リンゴ買ってきてくれるかな・・・・・・・」

ぼんやり考えながら、目蓋を閉じた。




頭に載せられた氷が全て水へと還り、其の水も自分の体温と同じになってしまった頃、ボクは目を覚ました。
額の水がぬるくて気持ち悪かったが、関節が痛くて、どうしようも無かった。
仕方が無いから、もう一度そのまま寝る事にした。




・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・あ、つめたい。




外から与えられた心地良い刺激に、ぼんやりとした意識の中で反応する。薄く目蓋を開くと、英二が居た。

唇を噛締めて、今にも泣きそうな顔でボクの額の顔や額の汗を冷やしたタオルで必死に拭っていた。

そんな顔は見たくなくて、ボクは目をふさいでもう一度眠りについた。




次に起きた時には、英二は何処にも居なくて、それが夢であった事を確信した。

そうだ、夢だ。
大体ボクの家に、英二が居る筈が無い。

それに、あんな顔は始めてみた、もう、見たくなかった。



「例え夢でも、英二にあんな顔はさしちゃいけない」



熱の邪魔する頭で、馬鹿みたいにそうやって其の時誓ったんだ。


 * * *


部分部分が曖昧で、でも鮮明な昔の夢。

たかが夢じゃないか、と思いながらも、学校へむかう足は止められなかった。


 * * *


学校につくと、クラスメイトへの挨拶もそこそこに、自分の席についた。だるい体を少しでも休めておきたかった。

そこへ、今日に限って何時もよりも早く学校についた英二がボクのところへやってきた。

「英二、おはよう」

いつものようににっこりと挨拶したのに、無表情で返される。その不審な様に首をかしげると、頬に手が当てられた。如何したのだろう・・・・・・・・と思う間もなく、そのままほっぺを思いっきりつねられた。

「いっ・・!」

そして痛いと抵抗する間もなく

「バカヤロウ」

とだけ言って、ボクの腕を引っ張って教室を出て行ってしまった。

其の時の英二の顔は、夢でみた顔と同じだった。
胸がチクリと痛んだ。


 * * * 


保健室のベットに横になって(無理矢理寝かされて)、かすむ天井をみあげた。英二の顔を見れない。

「なんで熱有るのに学校来たんだよ」
「・・・・・・・・・・」

サンジュウハチドニブというわけの解らない数字を指し示した体温計をにぎって、英二は言った。
本気で怒ってる時の声。
こういう時の英二に、ごまかしは通じない事はよおくわかっていた。

一度深く息を吸って、ぼやけた頭をクリアにした。やけに鮮明な、夢の思い出。

「ね、英二。ボクね、夢を見たんだ」
「何の」
「英二がね、さっきみたいな泣きそうな顔でボクを見てるんだ。其の時もちょうど、ボクが熱をだした時だった。英二がボクの部屋にいてね、冷たいタオルで冷やしてくれた。其の時ね、思ったんだ」

「英二にそんな顔はさせちゃあいけない」

「でも失敗だったかな、さっきの英二の顔、夢で見たのと同じなんだもん」

英二の方をみて、大して悪びれた風も無く「ごめんね」と言うと、英二は呆れたような顔をした。

「怒った?」

夢の話持ち出されても、そりゃ相手は怒るわな、と思いながら、ボクは英二を見上げた。

冷たいタオルを持った英二の姿は、あの時の夢ととても良く似ていて、ダブってしまう。
泣きそうな、顔。見たくなかった、顔。

「ボクが、英二に迷惑かけたから?」
「違うっ!」
「じゃあ、なんで」

下唇を噛締めて、ボクの額にタオルを置いてくれた。ひんやりしていて、気持ちがいい。その感覚は夢と同じモノで、なおさらあの時の彼と今の彼がダブる。

「オレが――、オレが言いたいのはね。不二には何時も笑ってて欲しいんだ」
「笑ってるじゃない」
「そうじゃなくて!」

言いたい言葉が見つからない時、英二は決まって頭を掻いた。そんな、もどかしそうな彼の仕草が好きだった。

「そうじゃ、なくってさ。辛そうなのは、辛そうに笑うのは―――、見たく、ないんだ」

英二の(無い)頭で必死に紡ぐ言葉は、どんな文字の羅列よりも純粋で、心に痛いくらい響く。溢れそうな思いが零れ落ちて言葉になる、それが我が侭な英二の精一杯の優しさだった。

「うん――――」

また胸がチクリと痛む。

「わかった」

ぎこちなく笑った彼を見て、ボクもまたぎこちなく笑った。こんなとき、何時ものようには笑えない。

「なら、ちゃんとココで寝ててね。お昼休みになったら、家まで送ってあげるから」
「うん、有難う。英二」

頷くと同時に、一限目の始まりを知らせるチャイムが鳴った。

もういかなきゃ、と英二は椅子から立ち上がる。ボクの傍から離れる隙に、さっきつねった頬をさすってくれた。姉さんとは違う、あったかい手。これもなかなか気持ちのいいものかもしれない。つねられた部分が熱を持つ。

「じゃあね、不二」

そして走るように保健室を後にする。
ドアを開けて閉める前に、ピタリと足を止めて振り返る。

「あ、それとね、さっきの夢の話、それ夢じゃないよ」
「は?」
「それ、紛れも無く、オレ」
「でも、」
「家に鍵かかってたからさ〜、ベランダからよじ登ったんだ」
「え?」
「不二が一人で心配だったから」

「じゃあ、ちゃんと寝てるんだよ?休み時間に見に来るから」

恥かしさを堪えるように、英二は走って保健室を後にした。

最後に呟くように言った言葉は、ボクにはちゃんと届いていた。



「休んでもダメ、学校来てもダメ。難しいね、英二は」


思いっきりつねられた左頬を、軽く撫でてみた。痕になっているかもしれない。
もしも痕が残っているなら、ずっと消えないで居て欲しい。




(少しずつすこしずつ君の事を知ってゆく、切ない途惑い。)

(でも、そんな自分勝手に優しい君が好き。)











も、戻ってくださいませ・・・・・・!(吐血)


 * * *


長すぎ馬鹿すぎ面白く無さすぎの、すぎすぎすぎの三拍子です。(笑えません)

えっとですね、お気づきのかたはいらっしゃいますでしょうか?実はコレですね、誕生日企画の一番最初の話と繋がっております(笑)
私的にですね、「お互いがお互いを一番大事に思ってるんだけど、その気持ちが強すぎて相手が自分を思いやってくれてるってゆう単純な事に気付いていない」ってのを書きたかったんですが・・・・・・が。(遠い目)

優先順位は相手→自分、みたいな感じですね。
相手のことしか考えてなくて、自分が相手にどう思われているのか気にもしていないかんじの。幼い感じの二人です。

中学生の純情。が最近の目標です(笑)いいなあ、純情!若い時しか出来ないよ!!!(笑)
純情万歳です!!!

あ、あと・・・・、菊丸君ファンのかた、いらっしゃいましたらすみません!

(無い)頭って・・・・・(笑)

いや、先輩にはそんなふうに思われてそうだなって!!!(言い訳になりません)
あ、でも!先輩は(無い)頭で必死に考える菊丸君がすきなんです!

もはやおなじみピー子ちゃんに、二万ヒッツ祝いに贈りつけました(笑)おめでとうね!ピー子ちゃん!