二重人格(仮)
《1》
いつものように俺がクラスにはいると、教室の雰囲気がいつもよりざわついているのに気がついた。
「えぇ?転校生??」
「菊丸も知らなかった?俺もだけど・・急な話らしいね。」
越前リョーマが俺に話してくれた。どうやら今日、急に転入することになった転校生とやらが、このクラスにはいるらしい。
この手の噂は伝わるのがめちゃめちゃに早い。クラスメイト達が騒いでいるのは、どうやらこのことだったようだ。
「男?女?」俺は越前に尋ねた。
「男だ。」めがねをかけた長身の男が、急に話に交じってきた。
「およ。おはよーさん、乾。」
「どんなやつか分かる?」
「無論だ。」
俺の挨拶に答えず二人は話を進めた。
何だよー。そんなに転校生が気になるのかよー。と、思いながらも俺も耳を傾ける。
「編入試験の成績は抜群だったらしい。正答率はほぼ百パーセントだ。特技はバイオリン。他、数種類の楽器が扱えるらしい。」
乾は情報収集の的確さとスピードにかけて、恐るべき男だ。なにが楽しいのか分からないが、情報を集めるとなると徹底的に調べようとする。
「相変わらず情報が早いなぁ。特技なんてどうやったら分かるんだ?」
「学校の情報コンピューターにアクセスした。」
「それってハッキングって言うんじゃない?」
越前が鋭いつっこみを入れる。生徒全員の情報が納められているコンピューターに、誰でも入り込めるはずはない。
「そうとも言う。」
乾は、大したことではないという顔でさらりと言った。この男は・・・。
「正答率ほぼ百パーセントはすごいよなー!きっとメガネとかかけててさー、塾何個もかけもちしててー、いつも参考書持ち歩いてるような・・・」
「今時そんな人いないよ。」
「俺が調べた情報にもそんなことは書かれてなかったぞ。」
は?という顔で冷たくあしらわれてしまった。じょ、冗談なのにー・・・。
と、まぁそんな感じの俺達なのだった。
ガラガラガラ・・・
教師が入室したのをみると、生徒達はみんな一斉にそれぞれの席に着いた。俺達も例外なく着席している。
俺は窓側一番後ろ(ベストポジションだ!)、その前が乾で、隣が越前だった。
生徒がみんな席に着いたところで、委員長のかけ声で“起立・礼・着席”。いつものテンポでいつもの風景だけど、やっぱり生徒達はいつもより落ち着きがない。
教室の黒板側の戸、その横の磨りガラスの窓に、ぼんやりと人影が見える。生徒達の注意は、(もちろん俺も含めて)その人影に集まっている。
大したことのない諸連絡がすむと、教師が言った。
「急なことなんだが、今日からこのクラスに新しく生徒が入ることになった。それでみんなに紹介しておこうと思うんだが・・・ええと、小林君、こっちへ来てくれないか。」
そう教師に呼ばれて、噂の転校生が戸を開けた。
その転校生はメガネなんてかけていなかったし、ましてや参考書も持ってはいなかった。もちろんそれは冗談だったんだけど、全く、見当違いもいいとこだった。
入ってきたのは、凛とした面持ちの少年だった。
切れ長で穏やかな目にかかる髪はうす茶色で、女の子みたいにサラサラだった。背は少し低いけど、全体的にやせてて手足はすらりとしている。
さっきまで、“かっこいいといいなぁ”とか言って騒いでいた女子達も、まさかこれほどとは思わなかったのだろう、目を丸くしている。
彼は、どこか優雅な動作で教師の隣に立った。
「わぁーお・・・」
「美少年、だな。」
「だね。」
乾はまたデータに加える事項ができた、ぐらいにしか思ってないだろう。越前も相手の特徴としてしか捉えてないみたいだ。
俺は思わず感嘆していた。
少年ははにかんだような笑顔を浮かべ、それがまた少女のようなかわいらしい顔をいっそう愛くるしく見せていた。
「小林周助です。よろしく、お願いします。」
そう言ってぺこりと頭を下げた。
いつの間にか黒板には、大きく“小林周助”と書かれている。
「みんな早く名前覚えてやれよ。いろいろと世話してやってくれ。まだ分からないことだらけだからな。あと、小林の机はまだ用意してないから・・・とりあえず今日休んでる久保の席を使ってくれ。」
教師は必要なことを大まかに言い終えると、その少年に“大丈夫か?”と声をかけ、少年がうなずくのを見て教室を出ていった。
教師が出ていくやいなや、久保君の席に腰を下ろした彼を、十数人の生徒がとり囲んだ。
自己紹介やら質問やら、かなり盛り上がっている。当の小林君はと言うと、大勢の人に囲まれて、少し顔を赤らめながらぎこちなく答えを返している。
あまり人との接触に慣れていないように見えた。
「しばらくは人が多くなるな。」
「野次馬に・・新聞部も来そうだね・・・ああ、あと部活勧誘なんかも。」
「部活勧誘?」
「すごい人気出るんじゃない?あの人。だったら少数派の部活なんかが、あの人と一緒に他の生徒も入部させよう、とか考えるだろうね。」
「そっか!芋づる式ってやつ?」
「・・・なんかちがうけど。」
「おお!じゃあ、小林君に入ってもらえば、部員の少ないうちの男子テニス部も、新入生がわんさか入って・・・あー、待て待て、男子が入ってこないと意味ないじゃん・・。」
「いや、あれなら男子部員だっては行って来るんじゃないか?」
いつもなら“入るわけないっしょ!”(俺)とか、“バカ?んなわけないじゃん”(越前)とかつっこみたくなる俺達だが。
「た、たしかに・・・。」
「・・・かもね。」
今回ばかりは、素直に納得してしまうのであった・・・。
「何にせよ、うちの部にとっては部員が一人でも増えるのはありがたいな。誘ってみるのも良い考えだ。」
乾がまとめて、提案した。
転校生がやってきた日の朝のことである。
【続く】
→
モドル
←ススム
またもや東京ひよこさんから頂いた小説です。
仮・・・とついているのは、まだ決まっていないからです。
私は先ず、「小林周助です」で爆笑しました。(鬼)
嗚呼、天才はやはり頭も天才なのね。(うっとり)
いつもありがとね。ほんとにね。
ブラックは何時のご登場かしら。
楽しみにしてるね。(ブラックファン)