・・・・・・・いい加減吐いたらどうですか?








>>>>>>>>理科







今日の実験は「塩の生成」。
水酸化ナトリウム水溶液と塩酸の中和反応で塩化ナトリウム、つまり食塩を造るのだ。

「二つとも危険な薬品だから、手についたりしたらすぐに洗うんだぞー」

黒板での手順の説明が終わり、教卓に薬品が並べられる。
そこへ菊丸が現れた。

「センセー、オレ、自白剤つくりたいんですけどー」
「はぁ?」
「今日作るの、食塩じゃなくって、自白剤にしません?」
「そんな物つくってどうするんだ??」
「そりゃあフジにのませ・・・・イテッ!!」

全て言い終える前に、菊丸の後頭部を不二が殴った。

「何を誰に飲ませるって?エージ」

可愛く微笑まれたが、口調は怖いほど冷やかだった。
硬直する菊丸と言いようの無いプレッシャーを出す不二を見て、教師はため息をついた。

「お前ら、早くしないと実験間に合わないぞ。また前みたいに放課後残ってやらされたいのか??」
「げっ!そんなことしたらまた鬼手塚にグランド走らされちゃうジャン!」

菊丸は必要な薬品を持って、自分の机に戻っていった。不二も菊丸のとり忘れた実験道具を持って、菊丸を追った。




二人一組で、塩を作ることになった。

「BTB液が緑色になったら、水酸化ナトリウムを入れるのをやめるんだよ」

駒込ピペットで塩酸の入ったビーカーに、少しずつ水酸化ナトリウムを加えていく。
少しでも入れ過ぎると、BTB液は青色に変わってしまう。
微妙な作業を意外に器用な菊丸が担当した。

菊丸が液を落とすたびに、不二がくるくるとガラス棒でかき混ぜた。
一瞬落とされた液が青色を示し、また黄色に戻っていく。

「自白剤なんてなんに使うの」
「そりゃあモチロン、フジに飲ませるんだよー」
「飲ませてどうするの」

もう一滴落ちると、液は緑色に染まった。

「あ、できたよ。ホラ!緑色ー」
「話しそらさないでよね」
「その話は後あと!早くしないとまた部活いけないよー。ええっと、次は何するんだっけ?」

明らかにわざとらしい菊丸を睨みながらも、

「・・・・・次は燃焼皿に入れて蒸発させるんだよ」

部活に遅れるのはまずいと思い、不二も実験に集中することにした。

ガスバーナーを点けて、さっき出来た液を加熱させる。
少量の液体は、すぐに蒸発していった。
皿には白い結晶が残る。

「フジ!フジ!コレが食塩??」
「そうだよ」
「なめても良いかな?」
「後で吐き出せば大丈夫だって、先生が言ってたよ」
「なめてみようよ!」



燃焼皿を三脚から下ろして、しばらく冷めるのを待った。

「ねっ」
「うん?」
「さっきのことだけどね、フジがちゃんとオレの事スキかどーか、ぜーんぶ吐かせたかったの!」
「自白剤で?」
「うん!そう。んで、オレについて聞き出すんだー」

冷めてきた燃焼皿を指で突っついて、中の結晶を指ですくった。

「そんな、自白剤なんか飲ませなくったって、教えてあげるのに」
「え!そうなの??じゃあ教えてよ!オレの事、どう思ってんの?!」
「聞いてもいいの?エージ、ショックで立ち直れないかもしれないよ?」
「え・・・・?」
「ホントに聞きたい?どうしてもってなら、いってもいいけど、ショック受けないでね」
「・・・・・・・・・・・・いい。やっぱり、いい」
「そう?ならいいんだけど」

不二が悪戯っぽく笑って、指先についた塩をなめた。

「しょっぱいね」

菊丸も悔しそうにペろりとなめて、やはりしょっぱいと思った。



人生はしょっぱいんだよ。




・・・・・・・・・・



→モドル

13:55 01/05/12