静かの海

 

静かの海

波音も聞こえない

さっきまではしゃいでいた子供の声も聞こえない

君の声も聞こえない

僕の声も届かない

静かの海

 

僕が生まれ

君が生まれた

静かの海

そう あれは母の甘い匂いに似ている

ぷかりと浮いた僕

愛し合った夜に

軋む大昔のウォーターベッド

あれは明らかに 羊水だった

 

静かの海

僕と君の境界線

忘れていたいけど

忘れられない

僕は僕で

僕は君じゃなかった それだけ

 

沈む夕日に涙した君の 創り出した小さな海

僕はそれを掬って舐めたつもりだったけど

実は君の涙に 抱かれていたんだね

 

静かの海

波音も聞こえない

さっきまではしゃいでいた子供の声も聞こえない

君の声も聞こえない

僕の声も届かない

静かの海

ひとつだけ解りあえた

それだけでいい