【命】

セブンイレブンでアルバイトをしていた頃の話です。当時私は高校3年生だったかな?
セブンではアルバイトは何人もいたけれど、一つ年下で高校2年生の、今時ヤンキーかよ的少女がアルバイトとして入ったわけです。
ヤンキーだけに体育会系の"のり"と"口調"で、見た目はまあ金髪に近い茶髪でメイクもがっつり。
服装もヤンキーならでは。髪型も前髪が得にヤンキーだったな・・。
しかし、人当たりはいい感じで、一般的な話題もするし、それまでヤンキーのイメージとしては悪すぎる者だったけれど、
ヤンキーのイメージをいろんな意味で変えてくれたのは彼女でした。(注・初めに言っておきますが、私はヤンキーのヤの字もありません。)
初めて一緒にバイトに入った時に、先に話しかけて来てくれたのは彼女でした。
何て言葉がきっかけだったかはもう忘れてしまったけれど。

何回か一緒に入るようになって自然と会話(私語)もするようになり、それが当たり前になっていました。

ある日「ちょっちょっちょっ・・!写真持って来たんで見て下さいよ!!」というので見せてもらうと
・・・・・・・・;
赤い刺繍入りの特攻服に身を固めた彼女が・・。
見てるほうが恥ずかしいくらいのヤンキーならではのポーズで写っていました。中間達も見うけられて・・。
失笑・・ややうけ。を、堪えて「す、凄いね・・・・。」必死にコメント。
ヤンキーについていろいろ語ってくれました。彼女なりのヤンキーとは実は非常に筋の通っている人が多い!だそうです。

また時には「その髪型いいっすね〜?」と、当時ロングにパーマをかけて二つ結びをしていた私の髪型を真似して、パーマをかけてきたり・・
そんなバイトの日々を送っていました。

それからまもなくバイト以外で遊ぶようになりました。
遊ぶと言っても、ご飯を食べたり、カラオケに行ったり、フラフラする事くらいしか手段はなかったのですが。それなりに楽しんでいました。
メールも毎日のようにやりとりして、家が近いのもあり、ファミレスではひたすら話しをしていました。
端からみたら、私はまるでヤンキーに地味にしばかれている高校生でした。
話す内容はというと、もちろんヤンキーについて、それから学校は面倒だねとか、バイトの愚痴をこぼしてみたり。

当時の彼女の最大の悩みである恋愛については多く聞いていました。
話しによると、年上の彼がいるけど最近うまくいっていなくて、暴力を振るう様になりもう駄目かもしれない。
でもやっぱり好きで別れられないよ。と、言う内容の悩みでした。話しを真剣にしている彼女はもはやヤンキーではなく一人の乙女でした。

そんなある日。その頃の私には理解しがたいメールが彼女から来ました。
「妊娠したかも。ヤバイ。」

私は凍り付きました。

だってそんな友達今までにいなかったから。そりゃなかなか居ないよね高校2年生だもの。
動揺を隠し切れない私は「なんで!?彼氏の子?病院行ったの?なんでわかるの?」そう質問攻めで返すと・・
「検査するやつで確かめた。でも、もう一回確かめる。怖いから立ち合って。」
「すぐ行く!」待ち合わせ場所まで自転車を飛ばしました。

落ち合ってヤンキーが一発目に発した言葉は「まじヤバイ・・怖いんだけど・・」
ヤンキーって気合みたいなので乗りきるイメージがあったけれど、ヤンキーの弱音を聞いてしまった私はもっと心臓がドキドキドキドキ・・;
トイレに行くのを見送って待っている間がとても長い時間に思えました。視線の先にはまた開くであろうトイレのドア・・。

出て来ました。唇を噛み締めて、うつむきながら。
やっぱり妊娠している事がわかった様で彼女が言いました。
「産めないよ・・・・」本人も、友達である私もその現実がすぐに飲み込めずに無言でしばらく立ち尽くした後に切り出しました。
「でもさー、病院で見てもらわないとまだわかんないよ!?」言葉とは裏腹に、すぐ解散し、それぞれ帰途につきました。
数時間経ってからメールが始まって、親と彼に取り敢えず事実を話す事を勧めて「うん」と言わせる迄、何時間もかかりました。
後々わかった事ですが、結局親には話さなかったようです。

次の日「この辺で良い産婦人科ってどこだと思う??」と聞かれたので、私はわからなかったので自分が生まれた病院を教えてみました。
「一緒に行ってくんない?」と、言う事で、二つ隣の駅から歩いた所にあるその病院へ向かいました。
駅について、病院まで夏の太陽が照りつける中、ただただ無言で突き付ける現実をうすうす感じながら歩きました。

病院へ付くと、彼女はてきぱきと受付を済ませました。
底知れない不安な気持ちだろうに・・しっかりしてるとこ、あるんだなー・・。何でも無い私がこんなに緊張しているのに・・。
と思いながら、呼ばれるのを待つため彼女に続いて廊下の長椅子に腰掛けました。
窓から太陽の光が少し差し込んでいたのですが、廊下全体は日陰となっていて少し静か過ぎる印象を受けました。
沈黙が続く中、ふと右隣の彼女に目を向けました。・・・・カタカタと震えていました。
人間が本気で震えているのを初めて見ました。その姿が目に焼き付いて今も忘れずにいます。
何も言えない私の視線に気が付いて彼女は言いました。「震え止まんない・・こえぇ・・」
その声でやっと我に返った私は、その震える手をぎゅっと握っていてあげる事しか出来ませんでした。

大丈夫・・大丈夫・・そんな現実ある訳ないよ、彼女に言い聞かせる様に。
大丈夫・・大丈夫・・捨てられちゃう訳ないよ、小さな命に聞こえるように。
私はどっちの味方なんだろう・・。

10分以上待ったでしょうか?やっと名前が呼ばれて「どうしよ・・こえぇ・・」そう言い残して診察室に入って行く彼女を見届けました。
出てきたらなんて言えばいいんだろう?静かな廊下で一人いろんな事を考えました・・。
怖い怖いと言っていたけれどその命を望んでいないから怖いの?カタカタと震えていたけれど、震えているのはお腹の中の命のほうだよ?
このまま意味のない命がはたしてあるのだろうか・・。

20分後。ガチャ・・。下を向いて出て来ました。と、同時に彼女は泣き崩れ、泣きながら言いました。
「(妊娠しています。おめでとう。)だってさ・・産んであげらんないよ。ほんとゴメン・・ゴメンね・・ゴメンね・・ゴメンね・・。」
その言葉は静かな廊下に響いて。
その言葉は小さな命にも届いたかな・・?
真夏の昼下がり、初めて愛された命。

その後数日間、彼女は引きこもったようにただメールを繰り返すばかりで、メールから悟れる様子はかなりどん底の様子。
バイトもやめてしまったみたいで姿も見れませんでした。
「彼氏と話し合ってほんとにおろす事になったよ」そんなメールがぽつんと来ました。

その数日後、昼間目が覚めた私はメールを見てはっとしました。

「気持ち悪い・・薬たくさん飲んだ。」

時間を見ると7分前!!すぐに電話したら彼女は出て、かなり途切れ途切れの返答で場所を聞き出しました。
自宅ではなく、喧嘩をしたまま仕事に出た彼の部屋に一人だと言う。彼のマンションはここから車で20分はかかる街。
すぐに車を持っている友達にお願いしたら、その友達の彼氏が車を出してくれたんですが、彼もまたヤンキーで(爆)。真っ白の改造車、早い早い!

マンションに着くと3人はすぐ車から飛び出しました。
運良く玄関は開いたままで、土足で飛び込み・・中には彼女が横たわって、傍には飲み散らかした薬の残骸が。
声を掛けながら運び出して近くの病院へ真っ白な改造車を飛ばす。

彼女はうわ言みたいに涙を流しながら呟きました。「この子と一緒に死んであげたい・・・・。」「生きてる意味無い・・。」

病院に着いて運ばれて行く彼女。
私は看護婦さんに小さな声で「すいません、彼女妊娠してるんです。」と、言って、彼女の携帯のメモリーを探り出したました。
彼の名前は聞いていたので、名前を見つけて即電話。留守電だったのでメッセージを残して切りました。
あの子の選んだ人だから、この人は必ずここへ来る。そんな気がしてそのまま携帯を看護婦さんに預けて、もう大丈夫だと聞いたのでそのまま帰りました。
その日から連絡はありませんでした。小さな命をおろしたという噂も聞いた、けど、敢えてこちらからも連絡はしませんでした。

あれから数ヶ月経って大丈夫かな、元気にやってるのかな・・なんて思い出したりしました。

そんな中、バイトをしていると彼女が店に現れました。
とても嬉しかった。本当に。。元気そうじゃん・・心の中でそう思いました。
彼女の隣には男性が・・その男性はあの時の彼?それとも・・・・。


意表を付かれた。
彼女は私を明らかに見て見ぬふりをした。
私も彼女を見て見ぬふりをしざる得なかった。

なぜだろう?その男性はあの時の人ではないから?
自分のした事が恥ずかしいから?思い出したくない過去を知っている者が嫌だから?合わせる顔が無い?
殴りたいと思った。
でも、彼女を許したい。

あの日、小さな命に心から懺悔していたでしょ。
あの日、小さな命と共に自分の命をも捧げようとしたでしょ。
あの日から立ち直って生きているでしょ。
私を記憶から消したって、彼と別れたって、小さな命を犠牲にしたって、貴方は決して一人じゃないのよ。

ほら、貴方がいないと宿れなかった命があった。
ほら、貴方とここに来た命がもう隣にいる。
ほら、貴方と話さなくても見守っている命がここにもある。
何をして意味が在るとか無いとかじゃなくて、ただ命あるだけで意味がある。

あの一瞬の小さな命や彼は貴方にとって意味があったでしょ?
何かを気付かせ感じさせてくれたんでしょ?
だから今を生きているんでしょ?

貴方の命も意味がある。

誰の為でもなく自分と向き合ってただ生きなさい。
それだけで貴方と言う意味を感じてくれる命が必ず在る。
それだけで命と言う意味を感じてくれる貴方が在る。
ただ生きなさい。
今はわからなくても、ただ生きてみなさい。

まだ見ぬ意味はそこから生まれる。

一夏の友達へ・・・・生きるんだよ?バイバイ。



04'05.xx 執筆